許容される日本語

日々変化する日本語。すでに許容されたのか、まだ誤用と扱うべきなのか。徒然なるままに考えます。

*当blogより引用する際は出典を明記してください。

望む/臨む

「海○ノゾむ別荘」 ○に入る助詞と「ノゾむ」の漢字の組合せを答えよ。 このような問題は、アナログ時代には中学生向けでしたが、手書きでなく入力が文章を書く主な手段となった現代では、変換ミスが見逃されたまま出版されてしまうものもみかけます。 「望む…

逆手(ぎゃくて/さかて)にとる

「相手の攻めを逆手にとって反撃した」――この「逆手」の読み方はなんでしょうか。 昭和51年第一刷発行の『広辞苑第二版補訂版』では「ぎゃくて 1 柔道で、相手の関節を不自然に曲げいためること。ぎゃく。2 相手の攻撃の手段を逆用して、自分の攻め手とする…

なるほどですね

ことばはいきものといわれます。日本語における「ビジネス敬語」も、数千万人が日々刻々使うのですから、変わってゆくのは自然なことかもしれません。 ただし敬語を用いる目的は、他人への敬意を表すことです。敬意を向けた相手が「敬意をもって遇された」と…

「」『』“”〝〟

引用符について、「現代仮名遣い」や「送り仮名の付け方」のような国の指針はありません。とはいえ広く認められた使い方はあって、主なものは下記のとおり。 「」 ・引用した発言や文章の前後を囲む 例:加藤哲郎は「相手も強いし」といっただけだ。 ・記事…

体形/体型

「形」と「型」は、どちらも「ケイ」「かた」と読む(「形」は「かたち」とも読みますが)ため、混同してしまいがちです。 しかし「形」は「イ 外形 ロ すがた」(三省堂漢和辞典第二版)であり、「型」は「イ いがた。鋳型」(同)です。「形」はformで「型…

存亡の危機

情報化社会でいわゆる「日本語の乱れ」に対する関心も広まり、いわば「ポピュラーな誤用」がwebなどですぐみつかります。 「気が置けない」「敷居が高い」「情けは人のためならず」「名前負け」「役不足」などの意味を誤って用いる誤用のほか、「押しも押さ…

ずつ/づつ

「一人宛」「少し宛」などの「宛」のかな表記は「ずつ」「づつ」のどちらでしょうか。 昭和61年内閣告示「現代仮名遣い」によると、本則は「ずつ」で、「づつ」も許容されます。 つまり、宿題や試験、応募書類、ビジネス文書などでは「ずつ」を使うほうが無…

出版はソーシャルメディア革命を生き延びるか?

何箇月か前に観たBBCの番組「Can TV Journalism Survive the Social Media Revolution?」でベテラン記者が「Second with the news and right rather than first and wrong.」と語ったのを憶えています。意訳すれば、誤ったスクープより正しい後追い報道のほ…

あなたにもできる政治家演説

衆議院選挙公示前の朝、駅前に近づくと、TVで聞き慣れた口調。いやいや自民党総裁が朝っぱらから住宅地で辻立ちするわけないとよく聴くと、共産党区議でした。政治的立場は対極にあるのに、なんで喋り方はおんなじなんだろーか、と、暫時黙考。電車に乗るこ…

2000本安打

*今回の記事、実は「組版ルール」ではないのですが、現場関連ネタってことで御容赦のほど。 2012年は、日本プロ野球(NPB)において、四人もの選手がプロ通算2000本めの安打を記録した年となりました。 四人とは、稲葉篤紀(北海道日本ハムファイターズ)、…

先生はご自宅におりますか

「いらっしゃる」は「行く」「来る」「いる」の尊敬語、「まいる(参る)」は「行く」「来る」の謙譲語です。 では「おる(居る)」は。 辞書では「一1 いる。存在する。〈中略〉二1 (動詞の下に付き、動作・状態の継続・持続の意味をそえる)…している。2 …

ひいては/しいては

「青田買い」を「青田刈り」、「時期尚早」を「時期早尚」、「を得ない」を「おえない/をおえない」、「〜詰め」を「〜尽くめ」、「シミュレーション」を「シュミレーション」など、聞き違いによる誤りは多いものです。多いとはいえ、それを誤りだと認識す…

爆発する/爆破する

日本語にも自動詞/他動詞の区別はあります。 厳密な定義にまでふみこむと複雑な話になりますが、通常は辞書で調べればよいでしょう。たとえば「自五」とあったら五段活用自動詞、「他下一」なら下一段活用他動詞です。 辞書によっては自動詞/他動詞の区別…

これに懲りずに

「これに懲りず、またお誘いいただければ幸いです」? それは「懲りる」の使い方がまちがいでしょ、そんな失礼な詫び状じゃ火に油を注ぐでしょ、と思うのは、いまや少数派らしい。 なんたって上の文は日本郵便の「お手紙文例集:お詫び」からである。 いや日…

(ら)れることができる

「実戦でしか感じ得られない」(週刊ベースボール8.27号)――この文の誤りはなんでしょうか。 「得る」には「できる」「可能性がある」の意味もあり、補助動詞的に動詞連用形につく場合はこの意です。また、助動詞「れる/られる」は可能も意味します。 つま…

漠然と/漫然と

「漠然と勉強しても身にならない」などという表現をよく耳にします。当初は若者ことばかと思っていましたが、昨今では大人もごくふつうに使い、かなり許容された段階のようです。 「漠然」は「ぼんやりしてはっきりせぬさま。とりとめのないさま」(広辞苑第…

を輩出する/が輩出する

先日シオドア・スタージョンの『コスミック・レイプ』(サンリオSF文庫)1980年発行の初版を3,150円で買いまして。その訳者あとがきに、「輩出する」が自動詞で使われておりました。 「○○が輩出する」の用法は現代ではすっかり廃れたように思われ、わたしも…

祗園祭/祇園祭

そろそろ京都のぎおん祭が始まります。さて、この「ギオン」、漢字ではどう書くのでしょう。 結論からいうと ○ 祇園 × 祗園 です。 「祗」の字、よく見ると、旁(つくり)の「氏」の下に「一」がありますね。これは「シ」と読み、祇とは別の漢字です。祇は「…

だいぶと

「だいぶと」ということばがあるのですね。まだくわしく調べていませんが、西日本ではふつうに使われるようです。意味は「だいぶ/だいぶん」と同じだと思われます。 あるQ&Aサイトの回答でこの「だいぶと」を「副詞+格助詞『と』」であって方言ではないと…

06年からスタートしている

「ている」(接続助詞「て」+補助動詞「いる」*)は便利なことばです。「進行」「継続」「完了」「状態」「性質」「反復」「経験」などいろいろな意味を表すことができます。 ただし便利なだけに、近年、濫用されるきらいがあります。左記の文の「濫用され…

斎藤佑樹「50年ぶりの開幕戦プロ初完投」

このところ月の最終週に戯れ話というパターンでしたが、今月は順序を入れ替え、最終週に通常の内容とします。 というのは、今週の週ベで、個人的にみすごせない見出しがあったんですよ。「初夏の記録大特集」の、巻頭4C*頁を除くと特集の最初にくる「2012『…

世界的な景気後退

以前「ケガすなわち外傷と故障すなわち障害が混同されています」(『ニッカン+』2010年12月号「スポーツ外来診察室から」)という指摘を読み、そういえばblogで安易に「○○選手は故障のため出場選手登録抹消」などと書いたことがあったかもしれない、と反省…

天災の被害に忸怩たる思いだ

「やおら」は「やを(徐)」+接尾語「ら」で、「静かに、物音など立てないように動作をするさま」(岩波古語辞典「やをら」)を表します。現代語でも「そろそろと。おもむろに。ゆっくりと」(新潮国語辞典新装改訂版)であり、やわらかな語感と「ゆっくり…

○○。(○○

2月の番外篇の続き。その後『ひとりっ子』無事購入しました。うーん、イーガンって、半分も理解できないのになんでこんなにおもしろいんだろうか、ととってもふしぎに思う文系人間(理系のひとはちゃんと理解して楽しめるんだろうなー、うらやましい!)。 …

報告しないよう判断し

「お詫びしたいと思います」(したいと思うだけでは詫びたことになりません。詳しくは過去の記事にて)を筆頭に昨今の曖昧表現の濫用が気になっているところへ、TVニュースで一日に何度も聞いて耳に残った表現です。 「報告しないよう判断し」。 助動詞「よ…

ミスリードしてしまった

‘rice’(米)と‘lice’(シラミの複数形)の混同などが笑い話になるとおり、lとrの区別は日本語話者には難しいものです。カナ表記にlとrの区別はありません。このため外来語の意味を誤って解釈するケースも生じます。「ミスリード」もそのひとつかもしれませ…

今週の投稿はお休みします。 合掌。

していただきますようお願いします

※先々週の記事で書きたかったものの、論旨がずれるので別記事にしました。 「いただく」に関して混乱があるようです。 1.「いただく」を尊敬語として用いる 2.「ご利用いただけます」などは誤用であるとする まずは1.について。 「いただく」は「もらう」の…

グローリー・シーズン

イーガンの『プランク・ダイヴ』を読んだあと、『ひとりっ子』をみつけだそうと、3月11日に本棚から雪崩をうった文庫本の山をかきわけたものの発見できず(なんと買ってなかった……)。SFだけでもふたたび本棚に収納できたのはよかったが(冒険小説とミステリ…

やっていただける

昨日、「海外ネットワーク」を観ようとTVを点けたところ、天皇陛下の手術に関する記者会見を放送していました。 たいへん多い誤用の「ご希望される」(正しくは「ご希望になる」「希望される」「希望なさる」)を始めいろいろと気になる「敬語」はあったもの…