許容される日本語

日々変化する日本語。すでに許容されたのか、まだ誤用と扱うべきなのか。徒然なるままに考えます。

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ミスリードしてしまった

‘rice’(米)と‘lice’(シラミの複数形)の混同などが笑い話になるとおり、lとrの区別は日本語話者には難しいものです。カナ表記にlとrの区別はありません。このため外来語の意味を誤って解釈するケースも生じます。「ミスリード」もそのひとつかもしれません。
「ミスリード」は‘mislead’で、誤り導く、つまり、迷わせる、誤解を誘うという意味です。本文とはかけはなれた見出で読者を誤解させた新聞や雑誌に対しては批判的ニュアンスで、うまく読者の解釈を誤らせてどんでん返しへつなげた推理小説にはほめことばとしてよく用いられます。
どんな場合でも、「ミスリードする」主体は、意図的に行います。「うっかりミスリードする」ことはありません。「ミスリードされてしまった」はあっても、「ミスリードしてしまった」では意味が通らないのです。
しかしこの「リード」を‘lead’でなく‘read’ととりちがえると、「ミスリードしてしまった」でないとおかしくなります。わざと「誤り読む」つまり「読み違える」わけはなく、うっかり「読み違えてしまった」はずだからです。
たしかに‘misread’(読み違える)という英単語はあるのですが、外来語として日本語に採り入れられたのは‘mislead’のみです。カナ書きで「ミスリード」と使うときには「誤解させる」の意味に限定しましょう。


外国語のカナ表記にはlとrのほかにもいろいろ困難があるので、昨今、新しいビジネス用語から映画の邦題まで、外国語をそのまま(ならまだしも単数形にしたり冠詞をとったり妙な現在分詞にしたりして)カナに写して流通させることがあまりに多いのが気になります。日本語に対する深い理解と洗練された感覚をかねそなえた人が外国語を巧みに翻訳してくれないでしょうか。