許容される日本語

日々変化する日本語。すでに許容されたのか、まだ誤用と扱うべきなのか。徒然なるままに考えます。

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あなたにもできる政治家演説

衆議院選挙公示前の朝、駅前に近づくと、TVで聞き慣れた口調。いやいや自民党総裁が朝っぱらから住宅地で辻立ちするわけないとよく聴くと、共産党区議でした。政治的立場は対極にあるのに、なんで喋り方はおんなじなんだろーか、と、暫時黙考。電車に乗るころにはほかへ関心が移っていましたが、短いあいだに思いついた政治家演説の共通項は下記のとおり。


・させていただく症候群
 有権者に「上から目線」とみられてはたいへん。へりくだっていると感じてもらえるよう、濫用批判には耳を貸さず、ふたことめには「させていただきます」。
・おおおいばりのおおおかみ
 巷間、大半が美化語「お/御」の使用を好ましく感じていると思われるこのごろ。もちろんみなさまの政治家も多用しますが、「お訴え」とかって「おビール」みたいよね。
・サ変動詞はNG
 サ行変格活用動詞を使うことはまかりならぬ、との暗黙のルールでもあるのかしらと疑いたくなるほど、「○○する」でなく「○○をする」と名詞と「する」のあいだに格助詞「を」を入れる。
・思いますはmust
 公約違反は政治家の常。断言して言質をとられてはならないので、「いたします」でなく「したいと思います」。「お詫びしたいと思います」くらい失礼ないいぐさはないと思います、が。
・アクセントは頭高
 「マ」ニフェスト、「ザ」イセイ、「セ」ンカクなどなど、若者の平板アクセントに対抗するためか、頭高アクセントだと「通」っぽいてな認識があるのか、語の頭が高くなる。いわゆる専門家やキャスターにもその傾向あり。
・じゃあ〜りませんか
 第8回新語・流行語大賞年間大賞とは抑揚が異なるものの、「○○じゃありませんか」と聴衆に念をおす頻度は高い。これ、濫発すると、意見をおしつけてるとしかとれないんですけど。
・みなさまの……
 前項とセットでよく使われるのが「みなさん」。国会議員が国民全員のために働くのは当然のはずなのにくどいほどくりかえすのは、特定集団の利益のために法律をつくっているとの疑惑を避けたいから?
・ff(フォルティシモ)
 意味のつながりを無視してでも、文をぶつ切りにして一つ一つの単語を強調する。リズムとイントネーションは聞く人に意図を理解してもらうのに必須の要素。すべて強調しちゃったらかえってわかりにくいのに。



今日で選挙戦も終り、明日からは、国民のみなさまへの!お訴えを!させていただきたいと思います!じゃありませんかみなさん!な演説を聞くこともしばらくはなくなります。だいじなのは選挙のあとなのですが。
現代の社会人として多忙なわたしも明日はちゃんと投票しますけれども、選挙公報を読んでも、国政を任せられると思える候補者がいません……支持できる政党がないから比例ブロックも困っちゃう。一票が未来を変えると実感しかね、選挙のたびに間接民主制への幻滅が大きくなる――とはいえ、国民の権利と同時に義務をはたさなきゃねぇ。