爆発する/爆破する
日本語にも自動詞/他動詞の区別はあります。
厳密な定義にまでふみこむと複雑な話になりますが、通常は辞書で調べればよいでしょう。たとえば「自五」とあったら五段活用自動詞、「他下一」なら下一段活用他動詞です。
辞書によっては自動詞/他動詞の区別を示さないものの、自動詞は「完結した意味を表わすのに目的語を必要としない動詞」(広辞苑第二版補訂版)、他動詞は「ある客体に作用を及ぼす意味をもつ動詞。国語では、その客体の概念を目的語として多く助詞『を』を添加して表わす」(同。「多く」とあるように、助詞「を」があればすべて他動詞というわけではありません。「鳥が空を飛ぶ」の「飛ぶ」は自動詞です。この場合、「を」は動作の目的でなく経過する場所を表し、「鳥」は「空」に作用を及ぼしません)と理解していれば、「(火『が』)消える」は自動詞、「(火『を』)消す」は他動詞と見分けることができます。
日本語では多くの動詞で自動詞と他動詞では活用が異なります。「湯が沸いたのでこんろの火を『消え』た」のように、他動詞を用いるべき状況で自動詞を用いるのは誤りです。
とはいえサ行変格活用動詞は、自動詞でも他動詞でもサ行変格活用ですし、辞書にも動詞としては載っておらず、語幹となる名詞の意味から自動詞/他動詞を考えるしかありません。
「爆発」は「急にはげしく破裂すること」(同)です。「○○『が』」破裂するというだけで完結した意味を表せますから、「爆発する」は自動詞です。
一方、「爆破」は「爆薬を用いて破壊すること」(同)です。爆薬を使って「○○『を』」破壊するので、「爆破する」は他動詞です。
「化学薬品が○○する」は、目的語なしでも文が完結しており自動詞を用いるべきなので「爆発する」。「老朽化したビルを○○する」は、目的語である「ビル」に作用を及ぼすので他動詞「爆破する」を使います。
では、自動詞「爆発する」に使役の助動詞「せる」を加えるとどうなるでしょうか。
「化学薬品が爆発する」という文では意思は問われません。化学薬品を扱う人が爆発させたいか否かにかかわらず爆発するニュアンスです。「化学薬品を爆発させる」では爆発させようという意思をもって化学薬品という客体を爆発という状態にさせます。「爆発する」は自動詞ですが、「爆発させる」と「せる」を加えると意味の上では他動詞と同じになります。
他動詞「爆破する」の場合は、「せる」を加えると「爆薬を用いて破壊-させる」の意味になりますから、自分が爆破するのでなく他人に爆破させるという状況以外では使えません。他動詞はもともと目的語をとるので、使役の助動詞を用いるのは「(人)に(物)を○○させる」といった場面でのみです。
さて、前々週に予告した「尊重させる」。
「尊重」の意味は「とうとび重んずること」(同)です。尊ぶのも重んずるのも目的語がなくては意味を成しませんから、「尊重する」は他動詞です。だれかになにかを尊重させるのでなく主語が「わたし」ならば、「選手の意見を最大限尊重する」であり、助動詞「せる」をつけてはいけません。
昨今、他動詞として使いたいときは「せる/させる」、尊敬語にしたいときは「れる/られる」など、安易に助動詞を用いるケースをよくみかけます。ことばは単純なマニュアルで規定できるものではありません。意味を考えて使ってこそ正しく意思の疎通を行えます。