許容される日本語

日々変化する日本語。すでに許容されたのか、まだ誤用と扱うべきなのか。徒然なるままに考えます。

*当blogより引用する際は出典を明記してください。

なるほどですね

ことばはいきものといわれます。日本語における「ビジネス敬語」も、数千万人が日々刻々使うのですから、変わってゆくのは自然なことかもしれません。
ただし敬語を用いる目的は、他人への敬意を表すことです。敬意を向けた相手が「敬意をもって遇された」と感じてくれなければ敬語を使った意味がありません。そのため敬語には、使用者の大半が適切と考える一定の規範があり、そこから大きく外れる用法は「誤った敬語」とみなされ「敬意をもって遇された」とは感じてもらえないのです。
「いきもの」である敬語の規範は、数学の法則のようには厳密に定義できず、時を経てうつりかわるというやっかいな性質をもちます。しかしだからこそ、自分の感覚だけで「これはみんなが使っている正しい敬語だ」ときめつけると、相手はそう感じておらず「敬語も使えない無知な者」と判断されてしまうおそれがあります。とりわけビジネスの場では旧来の規範に則った敬語を用いるほうが無難です。


さて、ビジネスの場でときおり耳にするあいづちに「なるほどですね」があります。
「なるほど」には副詞として以外に感動詞としての使い方があり、「相手の話に相づちを打つ時、合点のいった時に発する語。言われる通り」(新潮国語辞典新装改訂版)の意味です。「なるほど」だけであいづちとしては十分なのですが、それではぞんざいだと感じて敬体にしようと「です」を加え、さらに助詞「ね」を添えて語調をやわらげるもしくは同調や共感を表そうとしたのでしょうか。
「なるほどですね」の使用が広まった理由はともあれ、この場合の「なるほど」は感動詞です。感動詞は「活用のない自立語で、主語や修飾語にならず、他の文節とは独立して用いられるもの」(Yahoo!辞書:大辞林)であり、「ああ」「もしもし」「はい」の類です。「ああです」「もしもしです」「はいです」と同じように、感動詞「なるほど」に助動詞「です」をつける使い方は旧来の規範にはありません。
話し手が「なるほどですね」を規範に外れると感じる場合、あなたのお話を拝聴していますよと合図して話の流れをよどませないためのあいづちが、違和感を生じさせて思考の流れをさまたげ、結果として話の腰を折ってしまいます。ビジネスの場では避けたい状況です。
「なるほど」をぞんざいに感じるとしても(本来ぞんざいではないのですが尊大と感じる人もいます)、「おっしゃるとおりです」「さようでございますね」「そうですね」「はい」など同様のあいづちはいくらもあります。広く許容されたビジネス敬語とは考えにくい「なるほどですね」を使う必要はなさそうです。