許容される日本語

日々変化する日本語。すでに許容されたのか、まだ誤用と扱うべきなのか。徒然なるままに考えます。

*当blogより引用する際は出典を明記してください。

斎藤佑樹「50年ぶりの開幕戦プロ初完投」

このところ月の最終週に戯れ話というパターンでしたが、今月は順序を入れ替え、最終週に通常の内容とします。
というのは、今週の週ベで、個人的にみすごせない見出しがあったんですよ。「初夏の記録大特集」の、巻頭4C*頁を除くと特集の最初にくる「2012『序盤戦』記録deプレーバック」のなかの、「日本ハム対西武(札幌ドーム)/50年ぶりの開幕戦プロ初完投」。
へ?
今季の北海道日本ハムファイターズ開幕投手斎藤佑樹、完投勝利を収めました。「2012『序盤戦』記録」というからにはこのことでしょう。しかし斎藤投手の「プロ初完投」は去年の話です。本文を読んでみると、「開幕戦でプロ初完投勝利を挙げたのは、62年の中日・柿本実以来50年ぶり」(週刊ベースボール5.28号)。
そうよねぇ、「50年ぶりの開幕戦プロ初完投勝利」でしょーが。
これはなにも重箱の隅をつついているわけではありません。
斎藤佑樹のプロ初完投」は、プロ野球ファンの記憶に残る試合だったのです。


2011年9月10日、日本製紙クリネックススタジアム宮城において開催された東北楽天ゴールデンイーグルス対ファイターズ戦、先発した斎藤投手が投げ合ったのは田中将大投手でした。2006年夏の阪神甲子園球場での引分再試合で脚光を浴びた二人のプロ初対決は、先にプロ入りした田中投手が貫禄を見せて9回1失点(0自責点)の完投勝利、斎藤投手は8回4失点で敗戦投手になったものの前述のとおりプロ初完投を記録しました。
かなりの話題になった試合、週ベの読者なら多くが記憶しており、上記の見出しを読んで違和感を覚えた人も少数とは思えません。しかも「日本唯一の野球週刊誌」の「記録大特集」なんだから「初完投」と「初完投勝利」をごっちゃにするのはどうか。
たしかに「50年ぶりの開幕戦プロ初完投勝利」だとそのままでは1行に入りきらない長さ。でもツメツメ(文字と文字のあいだを狭くして組む)にすれば入る。「見出しがはみだすから『勝利』とっちゃえ」なんて安易な作業だったらいやだなぁ。


本文読めばわかるんだからいーじゃん、で済ませることもできるのかもしれないけど、プロ野球ファンのためにプロ野球記者が制作しているはずの雑誌にプロ意識を求めるのはいけないことなのかしら。
週ベに限らず、「職人気質の国」からどんどんプロ意識が失われていくように感じる昨今でございます。
もちろん他人をあげつらってばかりではならないので、今後とも自己研鑽に努めたく存じます。



*「4C」とは四色の意味で、青(シアン/C)・赤(つーか濃いピンク。マゼンタ/M)・黄(イエロー/Y)・黒(スミ/K)のインクをかけあわせていわゆる「カラーページ」にします。四色のうち二色だけを使うと「2C」(特に指定のないかぎりスミともう一色)、三色だと「3C」(特に指定のないかぎりスミともう二色)。「1C」はスミ一色の「モノクロページ」のことです(Cの1CとかMの1Cとかはあんまりない。Yの1Cは、読めないなー)。



附記。
読みさして放っといた週ベの続きを読んだら、またひっかかる箇所が。同じく「記録大特集」のなかで。
セ・リーグ野手最年長出場・先発出場/金本知憲/達成時年齢44歳1カ月/達成日2011.5.13――ん?
まぁ、ここで「金本は斎藤隆の同級生で一浪で隆は早生まれで今42歳だからぁ」と考えこむのは少数派かもしれん。でも、同じ表の数行下に
最年長本塁打金本知憲/達成時年齢44歳1カ月/達成日2012.5.13――とあるのよ。
しかも、すぐ右の囲み記事には大きく
阪神金本知憲(44歳1カ月)が今季達成した最年長記録/セ・リーグ野手最年長出場&先発出場/44歳1カ月/2012年5月13日横浜戦(横浜)――。
以前にも書きましたが、校正者の専門性は読解力と矛盾を発見する能力にこそあるわけで、この明らかな矛盾をスルーしちゃったのはやっぱまずいよね、てことで、毎週欠かさず週ベを買うのはプロ意識をたたきなおすためなのかもと思うのでした。