許容される日本語

日々変化する日本語。すでに許容されたのか、まだ誤用と扱うべきなのか。徒然なるままに考えます。

*当blogより引用する際は出典を明記してください。

やっていただける

昨日、「海外ネットワーク」を観ようとTVを点けたところ、天皇陛下の手術に関する記者会見を放送していました。
たいへん多い誤用の「ご希望される」(正しくは「ご希望になる」「希望される」「希望なさる」)を始めいろいろと気になる「敬語」はあったものの、いまや老若男女すべての層で「正しい敬語」を使える人は少ないのでしかたないでしょう。外科医の職責を十全に果されたことのほうが重要ですし(「日本語のプロ」であるべき記者、編集者、ライター、アナウンサー等の「敬語の乱れ」まで「しかたない」とは思いたくないところですが……)。


ひとつだけ聞き流せなかったのが、「やっていただける」です(執刀医でなく宮内庁の皇室医務主管のことばだっただけに)。
戦後、皇室に対する敬語が簡略化され、報道でも「れる/られる」(尊敬語としてはもっとも軽い形式)で統一するようになりました。とはいえ「皇室に対しては敬語を用いて敬意を示す」のが現状のコンセンサスだとすれば、だれが聞いても「敬意が示された」と感じられる敬語を使いたいものです。
「やる(遣る)」は、与える、してやる、使いに出すなど、目下に対する動作に用いることが多い動詞です。また、「本来の動詞の使用を避けて言う」(web辞書大辞林)用法もあり、俗語では殺す、危害を与えるなども意味します。このため、する、行うの代用として使えるとはいっても、ぞんざいな語感をもつことばと感じる人も多いのです。
ぞんざいなことばは、敬意を示すべき相手の動作に用いてはいけません。「れる」「になる」をつけて尊敬語の形式にしたところでぞんざいな印象はぬぐえず、かえって相手の気分を害するおそれがあります。
敬語は相手への敬意を示して人間関係を潤滑にするためのものです。すべての人が「やる」と「する」にまったく同じ印象を抱くわけではない以上、「やっていただく」「やられる/おやりになる」「やらせていただく」などは用いず、「していただく/お(ご)〜いただく」「なさる/される/お(ご)〜になる」「させていただく(濫用に注意)」を使うほうがよいでしょう。



なお、「お(ご)〜いただく」「お(ご)〜になる」の作り方は下記のとおりです。
お+動詞連用形+いただく/になる(例:「お書きいただく」「お書きになる」)
ご(和語であれば「お」)+名詞+いただく/になる(例:「ご記入いただく」「ご記入になる」)
(ここに入る名詞はサ行変格活用動詞を作れるもののみです)