許容される日本語

日々変化する日本語。すでに許容されたのか、まだ誤用と扱うべきなのか。徒然なるままに考えます。

*当blogより引用する際は出典を明記してください。

祗園祭/祇園祭

そろそろ京都のぎおん祭が始まります。さて、この「ギオン」、漢字ではどう書くのでしょう。
結論からいうと
○ 祇園
× 祗園
です。
「祗」の字、よく見ると、旁(つくり)の「氏」の下に「一」がありますね。これは「シ」と読み、祇とは別の漢字です。祇は「シ」とも読みますが祗は「ギ」とは読まないので、「祗園祭」では「シオンマツリ」になってしまいます。
日本語入力ソフトウェアが「ぎおん」を「祗園」とも変換してしまうのでお気をつけください。



旁が「一」なしで「氏」だけの「祇」(機器によっては正しく表示されないかもしれません。「示氏」を一文字としてイメージしてください)が正しい「ギ」、では「ネ氏」は?


漢字にはさまざまな字形があります。当用漢字や常用漢字を定めたときに異体の統合が図られ、「示」や「ネ」の形がある「しめすへん」は「ネ」が基準になりました。
とはいえ当/常用漢字表外の漢字(表外漢字)については、2000年の表外漢字字体表で「康熙字典に掲げる字体そのものではないが,康熙字典を典拠として作られてきた明治以来の活字字体」=「いわゆる康熙字典体」(表外漢字字体表前文)に近いものが「印刷標準字体」とされました。
この原則からすれば「示氏」が標準です。しかし、「しめすへん」「しんにゅう」「しょくへん」については、いわゆる康熙字典体ではない、常用漢字表に採用された形も許容されます(3部首許容)。つまり「ネ氏」も印刷標準字体なのです。


1949年の当用漢字字体表制定の際、多くの漢字が簡略化されました。それでも表外漢字はいわゆる康熙字典体を使うのが一般的でしたが、朝日新聞社の「朝日文字」のように、表外漢字にも簡略化を適用する「拡張新字体」が現れました。
ワードプロセッサが普及してきた1983年のJIS X 0208で拡張新字体が採用されてからは、拡張新字体を使う書籍も出てきました。たとえば「頸」を「頚」とするといったものです。
そうはいっても、「森鴎外」(機器によっては正しく表示されないかもしれません。「はこがまえ」の中は「口」が三つです)は「森鴎外」では違和感があります。
「明治以来,活字字体として最も普通に用いられてきた印刷文字字体であって,かつ,現在においても常用漢字の字体に準じた略字体以上に高い頻度で用いられている印刷文字字体」(表外漢字字体表前文)はいわゆる康熙字典体で、長く書籍でなじんできました。表外漢字字体表をふまえて制定されたJIS X 0213の普及が進むと、漢字はいわゆる康熙字典体に収斂するかもしれませんね。



久々の更新です。が、諸般の事情により、次回更新はまたあいだが空いて7月末になります……。