許容される日本語

日々変化する日本語。すでに許容されたのか、まだ誤用と扱うべきなのか。徒然なるままに考えます。

*当blogより引用する際は出典を明記してください。

コ°コ°コ°ジ(鼻濁音のルール)

先日、国際会議に出席した首相が開催国の外相(著名なベテラン外交官)の名前をいいあやまり、それをそのままテロップにした公共放送にあきれた。が、それよりも公共放送になんとかしてほしいのが、ガ行鼻濁音であります。
ガ行鼻濁音(カ行に°をつけて表します)とは、ふつうのガ行濁音(濁音は、ガ/ギャ行・ザ/ジャ行・ダ行・バ/ビャ行、濁る音のこと)に比べて呼気が鼻に抜けるやわらかい発音です。今はどーかしらんが、昔は、プロどころか中学校の放送部でも必須技能でした。
いや、イマドキのアナウンサーは鼻濁音もできない、とぼやきたいんじゃない。


なんでもかんでも鼻濁音にせんでくれキモチワルイ!


と、声を大にしていいたいのでございます。
パブロフじゃないよ外相の「外相」は、「ガイショー」であって「カ°イショー」ではないのだよ。



鼻濁音のない地域も多いので、ふつーの人が鼻濁音を使わずに話しても気になりません。役者が西日本の人物を演じるときに、役作りとして濁音のみで話すこともあるでしょう。アナウンサーやナレーターといった話すことのプロには規範に則って鼻濁音を使ってほしいけど、重要なのは「規範に則って」でね。濁音にすべきガ行まで鼻濁音で発音されると聞きづらいことこのうえない。
じゃあどのガ行の発音が濁音にすべきでどれが鼻濁音にすべきなのか。


キホンは、意味が続いてれば鼻濁音、意味の切れめのアタマは濁音、です。


「小学校」は「ショーカ°(鼻濁音)ッコー」、「高等学校」は「コートーガ(濁音)ッコー」。
「小」と「学校」は分けられないので鼻濁音、「高等」と「学校」は分けられるので濁音、と考えればわかりやすいかと。
助詞の「が」は、単語としては接続することばと分けられますが、分けちゃうと意味を成さないので、鼻濁音。「学校が」は「ガッコーカ°」と発音します。「分けられますが」も「ワケラレマスカ°」。
副助詞「くらい」が濁った「ぐらい」や接尾語「ごと」なんかも、意味が続いてると考えて鼻濁音(「それぐらい=ソレク°ライ」「部署ごと=ブショコ°ト」など)。
美化語「お」に続く語は、「お」と分けられると考えて濁音(お元気=オゲンキ)。ただ、「お髪」などわかちがたい一語と感じられるものは鼻濁音(オク°シ)。


「キホンは」、てことは例外もあります(例外の例外もあるのであわせて説明します)。
「高等学校=コートーガッコー」のように、意味が分けられる複合語のうち、あとにくることばのアタマは濁音なのですが、そのガ行が連濁の結果だった場合は鼻濁音になります。連濁とは、複合語の合成に際して清音(濁らない音)が濁音に変化したもので、「本(ほん)+箱(はこ)=本箱(ほんばこ)」の類です。「株式会社(株式+会社)」は「カブシキカ°イシャ」、「案内係(案内+係)」は「アンナイカ°カリ」。
数詞は濁音。「午後五時五十五分」は「ゴコ°ゴジゴジューゴフン」です(「午」は語頭なので濁音、「後」は語中なので鼻濁音、「五」は数詞なのですべて濁音)。例外として、「十五夜=ジューコ°ヤ」など、数詞としての意味が薄れて熟語の一部となったもの(語頭を除く)は鼻濁音で発音します。
擬音語や擬態語で、語頭にガ行がくるもののくりかえしは濁音です。「がつがつ」は「ガツガツ」で、「ガツカ°ツ」ではありません。「ギラギラ」「グーグー」「ゲラゲラ」「ゴトゴト」なども同様。語頭でないガ行はもともと鼻濁音なので、「もごもご」は「モコ°モコ°」であって「モゴモゴ」にはなりませんよ。
外来語(人名や地名を含む)中のガ行は、語中も語頭も関係なく、濁音です。ただし、「オルガン」など日本語になって長いことばは鼻濁音(オルカ°ン)になることもあります(原則としては濁音)。また、元の外国語が[ŋ]等の鼻音だった場合は鼻濁音。「king」は「キンク°」です。
とはいえ、外来語でない日本語は、「ン」のあとだからって鼻濁音になるわけじゃありません<ここ、けっこーまちがってる人が多いので要注意! 「日本銀行」は「ニッポンギンコー」、「参議院議員」は「サンキ°インギイン」です。「参議院」の「キ°」は、語中だから鼻濁音なのであって、「ン」のあとだから鼻濁音なのではない。



語中か語頭かの判断には個人差があるのでそこは峻別できない(たとえば「不義理」は「フギリ」も「フキ°リ」も可)ものの、ガ行の濁音/鼻濁音の使い分けはそんなに難しいことではありません。話すことを職業にするならルールどおりに鼻濁音を使ってしかるべし。でも、すべて鼻濁音にされるくらいなら、いっさい鼻濁音なしで濁音のみにしてくれたほうがまだ聞きやすいなぁ。