許容される日本語

日々変化する日本語。すでに許容されたのか、まだ誤用と扱うべきなのか。徒然なるままに考えます。

*当blogより引用する際は出典を明記してください。

しゃべられる/しゃべれる

「ら抜きことば」が問題視されるようになってずいぶん経ちます。
第20期国語審議会(1995年)の審議経過報告「新しい時代に応じた国語施策について」に「この言い方は現時点ではなお共通語においては誤りとされ、少なくとも新聞等ではほとんど用いられていない。〈中略〉国語審議会としては、本来の言い方や変化の事実を示し、共通語においては改まった場での『ら抜き言葉』の使用は現時点では認知しかねるとすべきであろう」(ただし「共通語において」「改まった場で」「現時点で」は「認知しかねる」とかなり慎重なものいいで、「今後の動向を見守っていく必要があろう」ともしています)とありますが、現在においても、いつでもどこでも許容されることばにはなっていません。


「ら抜きことば」はビジネスや教育の場では避けるほうが無難です。とはいえ、「ら抜きことば」でないものにまで「ら」を入れてしまうと、それはそれで「おかしな日本語」とうけとられます。
「しゃべる」ことが可能であると示したい場合、
1 しゃべることができる(連体形+「ことができる」)
2 しゃべり得る(連用形+「得る」)
3 しゃべられる(未然形+「れる」)
4 しゃべれる(可能動詞)
の形があります。
このうち2は、「しゃべる」というくだけたニュアンスのことばに「得る」という文章語はそぐわないのでほとんど使われません。
同様にほとんど使われないのが3。誤りではないものの、五段活用動詞の可能表現には可能動詞を用いるのが一般的だからです。
可能動詞とは、五段活用動詞(しゃべら/しゃべろ-しゃべり-しゃべる-しゃべる-しゃべれ-しゃべれ)を下一段活用(しゃべれ-しゃべれ-しゃべれる-しゃべれる-しゃべれれ〈命令形はなし〉)させて可能の意を表すものです。
「食べる」は下一段活用動詞(食べ-食べ-食べる-食べる-食べれ-食べろ/食べよ)ですから可能動詞にはせず、助動詞「られる」を用いて「食べられる」とします。「食べれる」は「ら抜きことば」です。
しかし「しゃべれる」は、可能動詞であって「ら抜きことば」ではないため、「ら」を入れる必要はありません。
「ら抜きことば」を使わないよう気をつけるあまり、聞く/読む人に「ら〈入れ〉ことば」と思われないよう(くりかえしますが、誤りではないものの一般的でもないのです)、
五段活用動詞は可能動詞
上一段活用/下一段活用/カ行変格活用動詞は助動詞「れる/られる」
とおぼえておきましょう。


*サ行変格活用動詞の可能表現には一般的に「できる」(複合動詞の場合は、語幹+「できる」〈「活用できる」など〉または連体形+「ことができる」〈「恋することができる」など。なお、「愛せる」は五段活用動詞「愛す」の可能動詞です〉)を用います。



*可能表現の重複については過去の記事をご覧ください。




蛇足。「食べる」の可能表現は「食べれる」であると認識する人は、「注文の多い料理店」を読み終わって「すぐたべられます」の妙味に気づくのでしょうか。