許容される日本語

日々変化する日本語。すでに許容されたのか、まだ誤用と扱うべきなのか。徒然なるままに考えます。

*当blogより引用する際は出典を明記してください。

パネラー

「パネリスト」ということばを手元の辞書で調べたところ、広辞苑第二版補訂版、新潮国語辞典新装改訂版、新小辞林第二版には載っていません。
Yahoo!辞書ではどうかというと、大辞林では「パネル-ディスカッションの問題提起者・討論者。パネラー」、大辞泉では「パネルディスカッションの討論者。パネラー」でした。
双方に登場する「パネラー」をひいてみると、「〔補説〕 (和製) panel(出場者の一団、の意)+-er [1]→パネリスト[2]クイズ番組の解答者」(大辞林)、「《(和)panel+er》 1 クイズ番組の解答者。2 『パネリスト』に同じ」(大辞泉)とあります。
みすごしてしまいそうですが、「(和製)」「(和)」とどちらも和製英語であると示しています。「paneler」という英語はなく(附記。「one that makes or fits (as the body of a vehicle) with panels」〈The free Merriam-Webster dictionary〉の意味では存在するようです。ただし引用元には「This word doesn't usually appear in our free dictionary」〈同〉ともあります。いずれにせよ「パネルディスカッションの討論者」の意ではありません)、正しくは「panelist/panellist」だからです。


校閲の際に困るのがこの和製英語です。
以前は校正刷りに「パネラー」とあれば「パネリスト?」と疑問出し(原稿と異なる箇所は赤字で直しますが、原稿どおりでも誤りと疑われるものはあとで消せるよう黒鉛筆で添え書きします)をして済んだものが、「パネラー」が辞書に載るようになった現在では、筆者が和製英語であることは承知のうえで用いている可能性も考えなければなりません。
シナリオライター」くらい定着した和製英語であれば、「シナリスト(scenarist)」と書き換えても読者に解ってもらえないので、そのままにします。
しかし「ネイリスト」はどうでしょう? ファッション誌であればともかく、経済誌なら「マニキュアリスト(manicurist)」とはしないまでも「ネイルテクニシャン(nail technician)」などに換えたほうがよいのでしょうか?
「ナルシスト」や「ロマンティスト」は「ナルシシスト(narcissist)」「ロマンティシスト(romanticist)」と直すべきなのか。
また、「ナイーブ」「フェミニスト」「クレーム」など、英語と日本語で意味が異なることばはどう扱うべきか。
英語の「claim」は正当な要求で、日本語の「クレーム」(英語でいえば名詞「complaint」、動詞「complain」)とはニュアンスが違います。さらに「クレーマー」となると、新しいことばで定義は不明確ながら「不当な要求をする消費者」といったところが最大公約数なので、「claimer」からはかなり離れた意味になります。



和製英語かどうか自体がやっかいな問題ではあります。
和製英語のなかには、「チーマー」「フリーター」など、英語の「er」にならって「アー」をつけたものがあります。だからといって「アー」がつくことばはすべて和製英語ということにはなりません。たしかに「ポエマー」(正しくは「poet」)は和製英語です。けれども「ゲーマー(gamer/英語ではコンピュータゲームをする人だけを意味しません)」や「パートタイマー(part-timer)」は、和製英語ではなく外来語です。
「アンバランス(unbalance)」は、英和辞書によっては「名詞として日本語では『アンバランス』と言うが, 英語では imbalanceと言う」(Yahoo!辞書:新グローバル英和辞典)とするものの、Webster's Ninth New Collegiate Dictionary1986年版には「n(1887):lack of balance:IMBALANCE」とあり、名詞としての用例もあるようです。
ナイターは和製英語ではない、とパンチョ伊東伊東一雄)さんがおっしゃったのはずいぶん昔のこと(わたしは週ベで読みましたが、フジテレビのウェブサイトに載った記事は今も閲覧できます)。日本では和製英語とみなされるが英語圏で使われていることば、は、ちょっとwebをながめただけでもいろいろみつかります。


とはいえ、ますますグローバル化し英語がコミュニケーション手段として広く採用される社会で、外国で通じない和製英語の氾濫がよいこととも思えません。頻繁に辞書をひく時間がないならば、和製英語の増殖に加担しないよう、安易なカタカナ語の使用を避けることをお勧めします。