許容される日本語

日々変化する日本語。すでに許容されたのか、まだ誤用と扱うべきなのか。徒然なるままに考えます。

*当blogより引用する際は出典を明記してください。

ご利用される、ご利用できます、ご利用してくださる、ご利用してください、ご利用していただく、ご利用する(サ行変格活用動詞の敬語)

もうすぐ4月、社会人としての生活を始める人も多い時期です。敬語は仕事の基礎の一つ。誤りやすいサ行変格活用動詞の敬語について、再確認しておくのもよいかもしれません。
新入社員を迎える側も。
*サ行変格活用…「〈前略〉口語では『する』だけであるが、和語・漢語・外来語や、名詞・副詞など他の品詞の語について、多くの複合動詞がつくられる。『恋す(る)』『啓す』『熱する』『びくびくする』『ドライブする』など。『甘んずる』『応ずる』などザ行に活用するものも含む。サ変」(goo辞書:デジタル大辞泉
(「○○くださる」「○○ください」「○○いただく」を追記しました)




サ変動詞の敬語の前に、敬語の三大類型の確認を。
 尊敬語:尊敬する人(多くは会話の相手)への敬意を直接示す。主語は尊敬する人。
 謙譲語:自分や身内を低めることで間接的に尊敬する人への敬意を示す。主語は自分や身内。
 叮嚀語:ていねいな表現で尊敬する人への敬意を示す。「です」「ます」など。


サ変動詞の敬語でもっともよくみられる誤りは「相手の行為に謙譲語を用いる」「自分の行為に尊敬語を用いる」ですから、尊敬語と謙譲語の主なパターンをみてみましょう。
*パターンにあてはまらない例外もあります。



・○○する
 尊敬語:ご○○になる、○○される、○○なさる、ご○○なさる(叮嚀語がつくと「ご○○になります」など。以下同じ)
 謙譲語:ご○○する、ご○○もうしあげる、○○いたす、ご○○いたす
 NG:ご○○される<尊敬語として使うのをみかけますが、謙譲語「ご○○する」に助動詞「れる」がついた形です。元が謙譲語なので、相手の行為に謙譲語を用いたことになってしまいます。
 !:「ご○○する」「ご○○もうしあげる」が使えない場合があります。たとえば「利用する」を謙譲語にするなら、「ご利用します」とはいえず、「利用いたします」になります。これは、「自分が××を利用する」のなかに「尊敬する人」が存在しないからです。「『自分が××を利用する』ことを相手に話す」となってはじめて「相手」という「尊敬する人」が現れます。「尊敬する人」が会話の相手のみである(話題になっている行為等の対象ではない)際には「○○いたす」を用います。「自分が相手に××を提出する」なら文中に「尊敬する人」があるので「ご提出します」も「提出いたします」も使えます(詳しくは文化庁敬語の指針」の「謙譲語I」「謙譲語II」をご覧ください)。


・○○できる
 尊敬語:ご○○になれる
 謙譲語:ご○○できる
 NG:相手の行為に「ご○○できる」<「○○する」の可能形を尊敬語にする場合、初めに「○○する」を尊敬語にします。「ご○○になる」ですね。次に「ご○○になる」の「なる」に可能の助動詞「れる」をつけ(「なれる」)、通常は最後に叮嚀語の「ます」を加えます(「ご○○になれます」)。


・○○してくれる
 尊敬語:ご○○くださる、○○してくださる<サ変動詞の語幹が漢語の場合(慣習上「ご」との組み合わせがなじまない語を除く。以下同じ)は「ご○○くださる」のほうが敬意の強い表現ですが、外来語などの場合は「○○してくださる」だけを用います。
 謙譲語:なし
 NG:ご○○してくださる<これは、謙譲語「ご○○する」に補助動詞「くださる」がついた形です。元が謙譲語なので、相手の行為に謙譲語を用いたことになってしまいます。
   ○○くださる<すでに許容された段階かもしれないほど広く使われていますが、規範に則った表現ではありません。「ご」との組み合わせがなじまない語の場合は「○○してくださる」を用いましょう。


・○○してくれ(依頼)
 尊敬語:ご○○ください、○○してください<サ変動詞の語幹が漢語の場合は「ご○○ください」のほうが敬意の強い表現ですが、外来語などの場合は「○○してください」だけを用います。
 謙譲語:なし
 NG:ご○○してください<これは、謙譲語「ご○○する」に補助動詞「ください」がついた形です。元が謙譲語なので、相手の行為に謙譲語を用いたことになってしまいます。
   ○○ください<「○○くださる」と同様、避けるほうがよいでしょう。
*「○○してくれるよう願う」については過去の記事をご覧ください。


・○○してもらう
 尊敬語:なし
 謙譲語:ご○○いただく、○○していただく<サ変動詞の語幹が漢語の場合は「ご○○いただく」のほうが敬意の強い表現ですが、外来語などの場合は「○○していただく」だけを用います。
 NG:ご○○していただく<これだと、「ご○○いただく」(主語は自分)とは異なり、謙譲語「ご○○する」に補助動詞「いただく」がついた形になってしまいます(「○○する」の主語は相手、「いただく」の主語は自分)。「○○していただく」なら、「○○する」は敬語でなく単に事実を述べただけですから、相手の行為に謙譲語を用いることにはなりません。NGの理由は「相手の行為に謙譲語を用いる」ことだと理解しましょう。
   ○○いただく<「○○くださる」と同様、避けるほうがよいでしょう。




ご利用される、ご利用できます、ご利用してくださる、ご利用してください、ご利用していただく、などを使ってしまうことのないよう、使用範囲が広いサ変動詞の敬語のパターンは暗記しておくのが得策です。
「敬語なんてこまけーことはいーんだよ! おれって人間の中身をみろ!」といいたくなるかもしれませんが、スピード重視の現代ビジネスにおいて、はじめて会った人間をじっくりみきわめてくれるところはあまりないのが現実です。
「敬語がきちんと使えるならまともな社員教育を受けているだろうから話を聞いてやろうか」も「敬語も使えないなら話の内容もたかがしれている。相手をするひまはないよ」も十分あり得ます。電話でクレームを受けたとき、めちゃくちゃな敬語で対応すれば怒りに火を注ぐのに対し、きれいな敬語でていねいに話を聴くだけで相手がおちついて冷静に話せるものです。
そもそも敬語は、基本パターンを覚えるだけでたいていは不自由なく使えます。なじみのない外国語を一から学習するのに比べれば実にたやすく習得できるのです。敬語が使えることはビジネスツールの一つだと考え、早めに身につけてしまいましょう。文化庁の「敬語おもしろ相談室」などが参考になります。