許容される日本語

日々変化する日本語。すでに許容されたのか、まだ誤用と扱うべきなのか。徒然なるままに考えます。

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原紙/原本

ことばが使われなくなる理由の一つに、ことばが表す物そのものが使われなくなることが挙げられます。


「原紙」の意味を辞書でひくと、まず、「楮(コウゾ)の皮を原料としてすいた堅く厚い紙。蚕卵紙に用いる」(新潮国語辞典新装改訂版)とあります。「楮の皮」が和紙の原料であると知らない人も増えたでしょうが、「蚕卵紙(さんらんし)」はさらに説明が要りそうです。これは「蚕の蛾(ガ)に卵を産みつけさせる厚い紙。種紙」(同)の意です。
「蚕卵紙」ほどではないにせよ、やはり現在ではなじみがない人が多いと思われるのが、「原紙」のもう一つの意味。「謄写版などの原版とする、蝋(ロウ)引きの紙」(同。実際には「ロウ」は正字)です。「謄写版」とは「蝋引きの原紙を鑢(ヤスリ)板にあてがい鉄筆で文字や絵を書いて、その部分の蝋を脱落させてすかしを作り、それを通して印刷インクをにじみ出させて所要の印刷を行なうもの。ガリ版。鉄筆版。孔版」(同)のこと。学校や企業にコピー機があたりまえに設置される時代、「ガリ版刷り」も行われなければ、その原版とする「原紙」も見かけないのがふつうです。


さて、コピー機で印刷をする場合、原稿を原稿ガラスに載せて読みとります。原稿の大半は一枚の紙なので、「原稿の紙」を略して「原紙」と呼ぶ人が出てきたのでしょうか。ときおり「証明書は写しでなく原紙を提出してください」といったただし書きにお目にかかります。
しかし「原紙」の意味として広く許容されているのは上記の二つです。「一 (謄写・抄録・翻訳などに対し)もとの文書。原書」(同。「原本」の説明)の意で用いるのなら、「原本」としたほうが誤りなく伝わります。


自分の意図を他人に正しく理解してもらえるよう、ことばの選択には注意を払いましょう。