許容される日本語

日々変化する日本語。すでに許容されたのか、まだ誤用と扱うべきなのか。徒然なるままに考えます。

*当blogより引用する際は出典を明記してください。

雇用者/被雇用者

「相続人」は、親族等の財産をうけつぐ人。親が死亡して子が財産を相続した場合、子のほうです。
被相続人」は、相続人に財産をうけつがれる人。上記の場合は親のほうです。
つまり、「被○○」とは、○○されること、○○を被ることを意味します。選挙権-被選挙権、後見人-被後見人、修飾語-被修飾語……すべて、前者は○○する、後者は○○される、と理解しましょう。


「扶養親族」「扶養家族」なら扶養(扶〈たす〉け養うこと)の対象となる親族や家族のことですが、「扶養者」は「扶養する者」――家族を養っている人の意味です。「扶養控除」は、課税に際して親族を扶養している人の収入から一定額を控除するもので、「扶養【される】親族の控除」ではなく、「親族を扶養【する】人に対する控除」。「被扶養者」なら、「扶養される者」なので養われている家族のことを示せます。
たとえば、健康保険組合をもつ企業に勤める夫と無収入の妻のケース。<今や時代錯誤になりつつある事例ながら、わかりやすいので……。
「保険者」は、健康保険を運営する健康保険組合
「被保険者」は、健康保険に加入して保険給付を受ける権利をもつ夫。
「扶養者」は、妻を扶養する夫。
「被扶養者」は、夫に扶養される妻。健康保険組合に被扶養者と認められることで、健康保険の給付を受ける権利も得られます。



ただ、「雇用(傭)者」には、雇用する人(雇い主)/雇用される人(雇われ人)の両方の意味があります。
労働統計で「新規雇用者数」といえば、新たに雇われた人の数であって、新たに労働者を雇った人の数ではありません。公式統計のように語の定義が明確にされたものなら、その統計等における定義に則れば誤解のおそれはないのですが、一般の文章や会話では、筆者/話者がどちらの定義で「雇用者」を用いたのか明確であるとはかぎりません。
相手に意図を正しく伝えるためには、筆者/話者のほうでことばの選択を吟味することが必要です。
統計等を引用するのでなければ、「雇用者」をほかのことばに置き換えてはいかがでしょう。雇い主を意味するなら「雇用主」や「使用者」、雇われ人の意なら「被用者」が使えます。