許容される日本語

日々変化する日本語。すでに許容されたのか、まだ誤用と扱うべきなのか。徒然なるままに考えます。

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悪徳業者の方

以前TVの街頭インタビューで悪徳業者の不正に眉を顰める市民が「悪徳業者の方」というのを聞き、笑い話として話したところ、相手はとりたてておかしいとは感じないようでした。
敬語は敬う気持を表す言葉ですから、根底に尊敬の念があることを前提とします。もちろん面従腹背ということもありますが、その場合でも繕った敬意は存在するのです。
悪徳業者を敬う人はあまりいないでしょう。万一心の底であんなふうにうまくやりたいと思っていたとしても、そんなことが周囲に知れればふつうは軽蔑されますから、敬意は匿しておくでしょう。
つまり、「悪徳業者の方」は尊敬語ではなく丁寧語なのです。
最近、役所のお報せに「高齢者の方」「小学生の方」などをよく見かけます。これは、公務員が高齢者や小学生を尊敬しているというよりは、ですます調で文章を書いているなら「の方」を付けるのがあたりまえとの感覚が一般的だからでしょうか。「高齢者」「小学生」と記すと市民からぞんざいだなどと文句がくるのかもしれませんが、それも、「の方」に尊敬語の意識が薄れ、敬意の有無に関係ない叮嚀な表現として捉えられているせいかと考えます。
昭和27年に国語審議会がこれからの敬語はできるだけ平明・簡素にと建議して以来55年、尊敬語はほとんど「れる・られる」に収斂した感があります。簡素になると同時に本来の「敬う気持を表す」意味も薄れてしまったのではないかと心配です。