許容される日本語

日々変化する日本語。すでに許容されたのか、まだ誤用と扱うべきなのか。徒然なるままに考えます。

*当blogより引用する際は出典を明記してください。

夫人/婦人

「総理もゴフジンも」。
TVニュースで内閣官房副長官の発言が放送されました。この「ゴフジン」は、文脈から内閣総理大臣の妻を指すととれます。その場合、「フジン」の漢字表記は?

【夫人】〈中略〉六 現代は、他人の妻の敬称。
【婦人】一 おんな。女性。二 既婚の女。〈後略〉
(新潮国語辞典新装改訂版)

英語でいいかえるなら、「夫人」は「Madam(e)」、「婦人」は「woman」というところ。「お蝶フジン」は「お蝶夫人」であって「お蝶婦人」ではありません。女性の病気を診るのは「夫人科」でなく「婦人科」です。
つまり、冒頭の「フジン」は「夫人」と書くはずです。
*「おんな」を示す場合、今日では、「婦人」でなく「女性」を用いるのが一般的です。


ところで、それ自体が敬称である「夫人」に敬称の「御」をつけてもよいものでしょうか。
他人の夫の敬称として「御主人」を使うことがありますが、「夫」の意で用いる「主人」は自分の夫の謙称であって敬称ではないので、「御夫人」とは異なります。
また、たしかに、「令夫人」とはいいます(「【令】〈中略〉二(接頭)他人の家族のことをいう場合、語の上に付けて敬意を表わす語」〈同〉)。「御芳名」(御+芳名)「御尊父」(御+尊父)なども、敬語の重複であるとされてきたものの、現在では広く許容される敬称です。とはいえ「御夫人」は聞きません。
「御夫人」は、「御芳名」ほど許容された段階にはないと思われます。




「御婦人」は、英語の「lady」「ladies」にあたる古めかしい表現で、「他人の妻」でなく「女性」の敬称です。この音にひきずられて「御夫人」といってしまったのかもしれませんね。
しかし、「御」や「れる/られる」を機械的に添えれば尊敬語になると考えているのであれば、ことばで仕事をする政治家としては、ことばに関する感性に疑問符がつきます。
保守派を任ずるならそれだけ「美しいことば、日本語」もたいせつにしてほしいものです。