許容される日本語

日々変化する日本語。すでに許容されたのか、まだ誤用と扱うべきなのか。徒然なるままに考えます。

*当blogより引用する際は出典を明記してください。

固定概念(固定観念/既成概念)

18日夜のNHK「経済フロントライン」の「未来人のコトバ」コーナーに近畿大学広報部長の世耕石弘氏が登場しました。少子化により大学間の競争が激化するなか、まじめでお堅い大学広報の殻を破るため、斬新なPRに挑んだそうです。「固定概念を、ぶっ壊す。」というキャッチコピーの新聞全面広告は、広告関連の賞をいくつも獲得しました。
ただ、わざわざ「既成概念」でなく「固定概念」とした点は、みすごされた可能性もあります。違和感を生じさせて目にとめてもらう、という手法は、「固定概念」に違和感をもたない場合は奏効しないからです(ページをあっさりめくらせない効力は主に、鮪の頭が地を割って屹立する画像が担ったのでしょうが)。


【概念】一 個々の具体物から共通した内容を取り出し、総合して得た〈中略〉もの〈後略〉(新小辞林第二版)
【観念】〈中略〉3〈中略〉思考の対象となる意識の内容・心的形象の総称〈中略〉4 考え。見解(広辞苑第二版補訂版)

「概念」は事物の本質をとらえたもので、客観的、普遍的です。人によって異なったり容易に変化したりしない、つまり、そもそも「固定」されているので、通常は「固定概念」のような使い方はしません。「観念」ならば主観的、個別的で、定まったものというわけではないため、「【固定観念】〈中略〉個人の心を常に占めて離れない考え。固着観念」(新潮国語辞典新装改訂版)の熟語もつくれます。
「概念」に、新味のない、硬直した、といったニュアンスを加える場合は、「【既成】既にでき上がっていること」(同)をつけて「既成概念」とするのがふつうです。


漢語は直観的に理解するのが難しいことがあります。キャッチコピーなどでなく意図を伝えるための文章では、語義を把握して正確に用いるのが得策です。あやふやな理解のまま使ってしまうと誤解を招きかねません。
たとえば、「固定観念」と「既成概念」は上記のとおり意味が異なりますので、混同しないようにしましょう。




追記。
今AXNミステリーでTVシリーズシャーロック・ホームズの冒険」字幕版を放送してて、「六つのナポレオン」に「固定概念」て訳語が出てきました。驚いて正典を繰ってみると「固定観念」(「六個のナポレオン」鈴木幸夫訳)でした。念のため、イマジカBSで放送中の吹替版も確認、やはり「固定観念」。fixされたイデーだからって「固定概念」はへんだよね、うん。