許容される日本語

日々変化する日本語。すでに許容されたのか、まだ誤用と扱うべきなのか。徒然なるままに考えます。

*当blogより引用する際は出典を明記してください。

敷居が高い/ハードルが高い

「敷居が高い
不義理や面目のないことがあって、その人の家へ行きにくい。
[補説]文化庁が発表した平成20年度『国語に関する世論調査』では、『あそこは敷居が高い』を、本来の意味である『相手に不義理などをしてしまい、行きにくい』で使う人が42.1パーセント、間違った意味『高級すぎたり、上品すぎたりして、入りにくい』で使う人が45.6パーセントという逆転した結果が出ている」(goo辞書:デジタル大辞泉


「敷居が高い」の誤用の許容度は、現在、上記調査時点より高まったのではないでしょうか。同調査では50歳代以上の5割以上が本来の意味で使うと答えました(それでも3割以上は「間違った意味」で使うと回答)が、今や中高年層でも「逆転した結果」になったかもしれません。TVや新聞などで「敷居が高いと敬遠せず気軽に体験してみましょう」といった用法を見聞きするのはすでに日常茶飯事です。
別冊「明鏡 問題なことば索引」が売りものの明鏡国語辞典第二版が誤用と断じるなど、新しい用法の辞書への採用例はまだほとんどないものの、「新語に強い三国」こと三省堂国語辞典第七版では、本来の意味に加えて「2 近寄りにくい」「3 気軽に体験できない」を載せ、2は「おそくとも戦前」、3は「一九八〇年代には」使われていたと解説。対義語として「敷居が低い」も掲載しました。三省堂は中学生向けの例解新国語辞典にも新たな用法を記載しています(大辞林新明解国語辞典では本来の意味のみ)。


以前は語そのものがなかった「敷居が低い」まで認められるかは不明ながら、「敷居が高い」の新しい意味は広く許容される段階に至ったといえるでしょう。その理由の第一は、「高級すぎたり、上品すぎたりして、入りにくい」を表すぴったりしたことばがないことだと思われます。
類似する「ハードルが高い」は、「乗り越えなくてはならない困難が大きいさま」(goo辞書:デジタル大辞泉)であり、難関の資格や高度な業務などには使えても、一流の料亭や高尚な芸術にはしっくりきません。
「分不相応」は、意味のうえではかなり近いものの、「分」(身分)ということばが現代の感覚ではうけいれられない可能性があります。


「敷居が高い」の誤用を許容すべきか否か迷う状況の今、正確な意思疎通のためには、相手の認識が不明な場合は「敷居が高い」を本来の意味で用いることを避ける必要が出てきます。こうしてどんどん使える日本語が少なくなってゆくのも困ったものです。