許容される日本語

日々変化する日本語。すでに許容されたのか、まだ誤用と扱うべきなのか。徒然なるままに考えます。

*当blogより引用する際は出典を明記してください。

マイナス3億円の赤字

大半の企業や団体で2012年度決算発表が済んだころでしょうか。その際に気をつけたいのが「マイナス3億円の赤字」といった表現です。
ここで数学の初歩。2−1=1、ですね。そして、2−(−1)=3、です。マイナスをマイナスするとプラスになります。
つまり、収支を差し引きしてマイナスであることを示す「赤字」に「−」の記号をつけると、プラスになってしまいます。「マイナス3億円の赤字」とは「−(−3億円)」で「3億円の黒字」ということです。
たとえば収入が310億円で支出が313億円だったとすると、収支差引額は310億円−313億円=−3億円、これを正しく表すには「3億円の赤字」と表現しましょう。「マイナス3億円の赤字」ではありません。
「減」などでも同じです。前年度が100億円で今年度が97億円だった場合、対前年度増減比率は(97億円−100億円)÷100億円×100=−3%、「3%減」であって「マイナス3%減」ではありません。「−30%オフ」や「▲3%ダウン」なども同様です。


たしかに「マイナス3億円の赤字」とあれば、「3億円の赤字なんだな」と思い、「3億円の黒字だ」とは思わないのがふつうです。
ただし、人間は、自分の感覚にとらわれるものです。そんな人間同士が意思疎通するための道具がことばであり、長年かけて確立したことばの定義です。Aさんがあることばを「イ」のつもりで話しても、Bさんが「ロ」だと理解しては、意思疎通ができません。相手の感覚がわからない以上、誤解を避けるには、少なくとも自分は定義に沿ったことばを使っておくことです。
親しい間柄の気が置けない(このことばの意味については過去の記事をご覧ください)会話は措くとして、あなたの考え方や感じ方をよく理解しているわけではない相手に対して話す/書くときには、ことばの定義に気を配りましょう。
その訓練として、作文でも日報でもeメールでも、なにか文章を書く際に、ひとつひとつのことばの定義を考えてみることをお勧めします。自分の感覚を基に話をしても相手に理解されるとは限りません。明確に定義されたことばを用いて論理的に話す/書くことは、学習の場でもビジネスの場でも役立つはずです。



なお、ことばの定義は辞書に載っています。「辞書が正しいとは限らない」との意見にも一理あるものの、だからといって、ことばの定義について辞書より信用が置けると広く認められたものもありません。
より正確さを求めるなら、異なる出版社が発行した辞書をいくつか参照するとよいでしょう。