許容される日本語

日々変化する日本語。すでに許容されたのか、まだ誤用と扱うべきなのか。徒然なるままに考えます。

*当blogより引用する際は出典を明記してください。

記名捺印のうえ提出ください

敬語の目的は相手に敬意を伝えることです。ならば尊敬や謙譲の気持が表れていればまちがった使い方をしてもよいのかというと、そうもいきません。現代の人間関係では、ビジネスでも交遊でも、互いに相手の立場を尊重して敬意を払い合うことが重要だからです。まちがった敬語を使っていては相手に尊重してもらえません。
ただし、まちがいか正しいかの判定は、相手の言語感覚によって異なります。謙譲語のつもりでなんにでも「させていただく」をつけたとしても、相手が「させていただく」の濫用を問題だと感じていたら逆効果です。


さて、なにかをお願いするときに使う敬語としては、
お+動詞連用形+ください(「お出しください」等)
または、ややくだけた間柄ならば
動詞連用形+助詞「て」+ください(「出してください」等)
が基本です。
相手の動作が動詞でなく名詞で表される場合は、
ご(和語であれば「お」)+名詞+ください
名詞+してください
(ここに入る名詞はサ行変格活用動詞を作れるもののみです)
となります。
最近、この「ご」または「お」が欠落した使い方が増えてきました。「ご提出ください」ではなく「提出ください」といったものです。話しことばではそれほど聞きませんが、ビジネス文書ではよく目にします。こちらがふつうになれば、「ご提出ください」に違和感を覚える人も出てくるかもしれません。
とはいえ逆に「ご提出してください」(「ご+名詞+する」は尊敬語でなく謙譲語ですから、これは明らかな誤りです)も珍しくはなく、「提出ください」が大多数という状況ではありませんから、現状ではまだ「ご提出ください」が基本と考えてよいでしょうか。


なお、「ください」とは異なり本来の敬語とはいえない「願います」(現在では敬語として許容されています)も、使い方は「ください」と同じですから、「ご提出願います」は正しくても「提出願います」は「ご」の欠落となります。



附記。
どうもこの記事、「『提出してくれ』を敬語にするとどうなるか」を検索したときにヒットするらしい、ということに気づきました。
わたしは上記のとおり「ご提出ください」で問題ないと考えますが、「提出」ということば自体が敬意を欠くと感じる場合は言い換えをお勧めします。
(申込書を)お送りください。
(アンケートの)ご回答をお寄せください。
といったように。
いずれにせよ「文脈に合ったことばを選択する」のが重要です。算数ではないのでいつでもどこでも正しい法則などというものはありません。
「提出」の言い換えを決めかねる場合、どういった内容の文書をどのような相手に送るのか、を明確にしてコメント欄にてお尋ねいただければ、可能な範囲でお答えいたします。